津市久居尾崎塾のブログ

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自粛期間中に読んだ本の一部

自粛期間中に多くの本を読んだ。少しご紹介。

現実逃避なのか本屋で興味を惹かれるのは小説が多かった。

原田マハはこの期間で初めて読んだ作家だったが、「奇跡の人」「キネマの神様」「楽園のカンバス」「フーテンのマハ」と立て続けに読んだ。

奇跡の人の三味線の音、キネマの神様の市ヶ谷の映画館の空気感、楽園のカンバスのルソーの狭いアパートの部屋。

2か月経ってもそれぞれの本の情景を思いだすことができる。読書は自宅でできる、脳の旅だ。

そもそも本屋でみかけた原田マハの著作を手に取ったのは、何かの記事で原田宗典の妹だと知っていたからだ。

中学時代は原田宗典の愛読者だった。「東京困惑日誌」等のエッセーに笑いつつ、「スメル男」では著者の想像力に驚嘆しながらワクワク読んだ。思春期特有の悩みや喜びをおもしろおかしく描く作品が多く、今でも好きな作家の一人だ。

そんな彼は覚せい剤で逮捕された後、「メメントモリ」で復帰した。メメントモリは、精神の底をさまよいながら、ついには逮捕されるまでの経緯、そして復帰の光がみえるまでを私小説風に描いている。

小説以外では、例えば瀧本哲史の「2020年6月30日にまたここで会おう」だ。

著者は2019年に病のため47歳で亡くなった。数年前に初めて読んだ「君に友達はいらない」からの愛読者だった私は少なからずショックを受けた。しかし作家は、亡くなっても作品は残る。この本は2012年に東大の伊藤謝恩ホールでの公演をまとめたものだ。

学生に向けての公演ではあるが、学生のみならず全ての働く人のやる気に火をつける、素晴らしい内容だった。主人公はあなた自身だよという話。

最後に紹介するのは上出遼平の「ハイパーハードボイルドグルメリポート」。

もともとはテレビ東京で放映していた番組。著者は同番組のプロデューサーで、番組だけでは伝えきれないとの思いからこの本を執筆したのだろう。

有名人や有名番組が出す本にありがちな、大きな文字で行間も内容もスッカスカの本の対極に位置する、次郎系もびっくりな濃厚な1冊だった。

テーマは表題の通り「世界各地で様々な人と一緒に飯を食べる」ということにつきるのだが、リベリアの墓地で暮らす元少年兵達の現在の境遇や少年兵になった経緯、そして同地区で暮らす売春婦の晩御飯時にみせる優しさ、エボラ出血熱から生還した女性の食事時のつぶやき、ケニアのごみ山で暮らす青年の描写、ロシアの新興宗教団体の空気感、どこをとってもズシンと心を動かされる内容だった。

善悪は人によっても、境遇によっても、時代によっても変化しうるという、私が普段の生活で意識する事の少なくなった当たり前の事実を淡々と描写しており、うなりながら読んだ。